レコードの小宇宙

麟子 #ロックバー

渋谷の喧騒から少し離れたところにリンエンドルフィンはある。
扉は開いている。中から大きい音楽が流れているからすぐに気がつくはずだ。
壁一面にあるレコードの前で麟子さんは曲をかけ続けている。

「楽しみ方は自分でみつけられるはず」

僕は暗室にいるみたいな気持ちで佇んでいる。
次から次に浮き出る像のように音楽は変わり続ける。
その中にいるときは責任から逃れている。
そんな時もあっていい。

ー音楽を意識し始めたのはいつですか?

二つ思い当たるんですが、一つは幼稚園の時に「ひらけ!ポンキッキ」で聴いた「The Beatles」です。もう一つは「KISS」です。年の離れた兄がkiss狂で物心ついた頃から爆音で聴かされてましたね。

ー音楽を演奏し始めたのはいつですか?

小さい頃からピアノとフルートやってました。バンド始めたのは高校二年生から。‬‭最初は「シーナ&ザ・ロケッツ」「ビアズリー」「Tracy Ullman」「Led Zeppelin」‬「LOUDNESS」「PERSONZ」「Motörhead」とか無節操にコピーしてましたね‬‭(笑)。

ー中学生、高校生の頃に夢中になっていたアーティストは?

中学生までは「The Beatles」が大好きでしたね。同時に中学以降、特定の何かを聴いていたわけじゃなくて、ジャンル関係無く出会う音楽全てに驚いて何でもがむしゃらに聴いてました。友達がいなかったので音楽が孤独を紛らしてくれたんでしょうね。

ーその頃、音楽のインプットはどのようにしていたのでしょうか?

兄が買っていた音楽雑誌を隠れて読んだり、レコード屋に行って店員さんに聞いたりしてました。

ー音楽に向かい合う熱量ってどこからきてたんですか?

今考えると小学校生から高校生2年生までいわゆる集団無視をちょいちょいされてたんですよ。私が周りにそうさせる性格なのか(笑)。寂しくて、そこからの逃げが熱量となったのかなと思います。

ー大学卒業後は何をされていましたか?

会社員です。主にオペラやミュージカルの企画制作をしていました。雑用ばかりで、ボロ雑巾以下の扱いでしたけどね(笑)。アマゾネスの首長みたいな女上司がいて……十数年働き、尊敬と憎悪を繰り返す上‬司との関係に耐えられなくて辞めました(笑)。

ーエンドルフィン2で働かれていたんですよね?その経緯をお聞かせください。

新入社員の時、会社の人に自由が丘のエンドルフィンに連れて行ってもらったんです。そこからどハマりして通ってたんですね。今まで聴いたことなかったような60、70年代の音楽をしっかり聴かせてくれるお店で、勉強するには最高の場所でした。会社を辞めて次の就職先を探している時、師匠(尾崎正彦さん)から、「新しく立ち上げる2店舗目のエンドルフィン2でバイトしないか?」ってお誘いがあったんです。普通に他の会社に勤めるもんだと思ってたんですけど……ハマっちゃったんですよね。

ーエンドルフィンはロックバー業界でどんな存在ですか?

ロックバー好きで名前を知らない人はいない場所と言っても過言ではないです。30年近くこの道一筋で続けておられます。続けることの‬偉大さにはかないません。そんな師匠(尾崎正彦さん)がこの業界で名を馳せ‬て生きておられるからこそ、アルバイトから始めた私がこうしていられ‬る。全て師匠のお陰です。

ー自分がお客側からロックバーの店員になった時の印象はどうでしたか?

自分がカウンターの内側に入ってみると、全員張り倒したくなりました。何でこんなにお行儀が悪いんだ、酔っ払って来るな!とさえ思いました。バーなのに(笑)。 逆にそれまでの私のみっともない飲み方を許してくれていた師匠を益々尊敬しましたね。よくあんな飲み方をして出禁にしなかったなと(笑)。

ーリンエンドルフィンにはどのように繋がっていくのでしょうか?

エンドルフィン2は5年間勤めたんですが、建物の取り壊しや色々なことが重なり閉店になったんです。私ももういい歳だったので途方に暮れていたんですね。悩んでいたら沢山のお客様が「お前が自分で店やれよ」って言うんですよ。そんなこと全く頭になかった……今の物件もお客様に見つけて貰い内見したら、一人でもできる大きさで気に入ったのと、本当にありがたいことなんですが、機材やレコードもエンドルフィン2で使っていたものをそのまま引き継げることになって……でも当然お金がない。それで父に、国金(日本政策金融公庫)から借りるための相談をしに行きました。父はしばらく黙ってから、「国金に借りるくらいなら俺から借りろ!」って言ってくれて。自分の余生に使いたかったはずの貯金なのに…感謝しきれません。 でもよくわかんないままスタートしたのが正直なところですね。ミラクルが重なったんです。自分でも不思議です。師匠がくれたエンドルフィンの名と、自分の麟子を合わせ、占いもして貰い(笑)リンエンドルフィンにしました。

ーお店を始めた頃、つらかったことは何ですか?

帳簿をつけること。伝票整理、毎日の掃除、お役所に行かないと物事が進まない。全部初めての経験だったので何でも大変でした。でも人間関係のしがらみが一切ない開放感は嬉しかったですね。

ーお店をやって良かったと思う瞬間はどんなときですか?

やっぱりお店の音が良いねって言われると嬉しいです。うちの機材とアナログレコードの相性がバッチリ合う瞬間があるんです。ハイ、ミドル、ローの音域が全てマッチする。指先から全身までゾクッとくる。その感動は何ものにも代え難いです。
どんな偉そうな立場のお客様が来ても、カウンターの内側と外側の関係はフェアです。だから色んな職種の方々から、自分では経験できない話を直接聞くことができて楽しいです。

ーリンエンドルフィンの強みは何ですか?

60年代から現在まで、師匠から教えてもらったものや今までの経験があるので、どの年代の人が来てもどうにかするくらいは大丈夫です。何に強いとかがないのが強みですかね(笑)。

ーオーディオのこだわりを教えてください。

スピーカーがJBL4425、アンプがSANSUI AU-α907XRの組み合わせです。これは自由‬が丘のエンドルフィンと同じで、師匠のこだわりの組み合わせです。
どのロックバーもそうだと思うんですけど、うちが一番音良いでしょ?という‬気持ちでかけてます。同じ機材でもお店の造りで聴こえ方は全く違うので、こればっかりは偶然の産物なんです。そのお店だけの音になる。嫌いな音だったら続けてこなかったでしょうね。

ーどんなお客様が多いですか?

お客様は少ないながらも様々です。自分の好きな曲がかからないと​怒って​帰る人もいれば、新しい音を求めに来る人もいる。毎回、同じ3曲を聴いて帰る人もいる。わざと爆音にしてるんですよ、喋​らなくて済むから(笑)。それに、​師匠が雑誌のインタビューで答えていて同感した意見なんですが、​いい音に感じるために、ある程度の音量が必要というのもあって。家で聴く小さい音ではなく、デカイ音の空間で聴く意味が​お店には​ある​のではないかと​。 

ーお客様から勉強することも多いんですね。

自分が知っている音楽なんてほんの一部にも及んでない。私より知識が豊富なお客様なんてたくさんいますよ。その人たちから色々な情報を教えてもらえるから新譜も買い足しができる。懐古主義にならずに常に自分のアンテナに引っかかる新しい音楽は選んでいきたい。そこは大事にしています。

ーアナログレコードは?

デジタル処理の中での最高の音を、アナログに落とし込む。その方法で本来のアナログレコードのクオリティーを保ったものができているかは不明です。音のクオリティーはCDがいい場合もありますよ。でも今のレコードの音もいいと思えるものもあります。現状でできる限り頑張ってると思うので昔の音質と比較することはしたくない。 最近のアーティストがレコードを出す気持ちもわかりますし買います、私はレコードというものが好きだから買っています。レコードのサイズが好き。レコード盤の小宇宙に取り憑かれているだけです。

ーどういうお店でありたいですか?

今世の中が不安定で変わりやすいと思うんですが音楽をちゃんと聴かせるお店であり続けたいです。

ーどんな人に来てほしいですか?気軽に入っていいんですか?

泥酔してる人、お行儀が悪い人、トイレを汚く使う人はダメです。いくらお店がガラガラでも入れません。音楽やお酒を楽しみに来てくれるお客様を守るための最善策です。お客様だから、お金を払えば何をしてもいいとは思いません。私の中の判断基準でビシバシ注意します。このクソババア!とかよく言われますよ。

ーロックバーでの楽しみ方のコツ?などありますか?

こうすればいい、こうした方がいい、など何かこちらから言うことはありません。楽しみ方は自分で見つかるはずです。

Rock bar “Lin Endorphin”
1-5-11 Komaba, Meguro-ku, Tokyo 153-0041 Japan
Closed on Sunday
Instagram : @lin_endorphin
Twitter : @LiNENDORPHIN

レコードの小宇宙

麟子 #ロックバー

渋谷の喧騒から少し離れたところにリンエンドルフィンはある。
扉は開いている。中から大きい音楽が流れているからすぐに気がつくはずだ。
壁一面にあるレコードの前で麟子さんは曲をかけ続けている。

「楽しみ方は自分でみつけられるはず」

僕は暗室にいるみたいな気持ちで佇んでいる。
次から次に浮き出る像のように音楽は変わり続ける。
その中にいるときは責任から逃れている。
そんな時もあっていい。

ー音楽を意識し始めたのはいつですか?

二つ思い当たるんですが、一つは幼稚園の時に「ひらけ!ポンキッキ」で聴いた「The Beatles」です。もう一つは「KISS」です。年の離れた兄がkiss狂で物心ついた頃から爆音で聴かされてましたね。

ー音楽を演奏し始めたのはいつですか?

小さい頃からピアノとフルートやってました。バンド始めたのは高校二年生から。‬‭最初は「シーナ&ザ・ロケッツ」「ビアズリー」「Tracy Ullman」「Led Zeppelin」‬「LOUDNESS」「PERSONZ」「Motörhead」とか無節操にコピーしてましたね‬‭(笑)。

ー中学生、高校生の頃に夢中になっていたアーティストは?

中学生までは「The Beatles」が大好きでしたね。同時に中学以降、特定の何かを聴いていたわけじゃなくて、ジャンル関係無く出会う音楽全てに驚いて何でもがむしゃらに聴いてました。友達がいなかったので音楽が孤独を紛らしてくれたんでしょうね。

ーその頃、音楽のインプットはどのようにしていたのでしょうか?

兄が買っていた音楽雑誌を隠れて読んだり、レコード屋に行って店員さんに聞いたりしてました。

ー音楽に向かい合う熱量ってどこからきてたんですか?

今考えると小学校生から高校生2年生までいわゆる集団無視をちょいちょいされてたんですよ。私が周りにそうさせる性格なのか(笑)。寂しくて、そこからの逃げが熱量となったのかなと思います。

ー大学卒業後は何をされていましたか?

会社員です。主にオペラやミュージカルの企画制作をしていました。雑用ばかりで、ボロ雑巾以下の扱いでしたけどね(笑)。アマゾネスの首長みたいな女上司がいて……十数年働き、尊敬と憎悪を繰り返す上‬司との関係に耐えられなくて辞めました(笑)。

ーエンドルフィン2で働かれていたんですよね?その経緯をお聞かせください。

新入社員の時、会社の人に自由が丘のエンドルフィンに連れて行ってもらったんです。そこからどハマりして通ってたんですね。今まで聴いたことなかったような60、70年代の音楽をしっかり聴かせてくれるお店で、勉強するには最高の場所でした。会社を辞めて次の就職先を探している時、師匠(尾崎正彦さん)から、「新しく立ち上げる2店舗目のエンドルフィン2でバイトしないか?」ってお誘いがあったんです。普通に他の会社に勤めるもんだと思ってたんですけど……ハマっちゃったんですよね。

ーエンドルフィンはロックバー業界でどんな存在ですか?

ロックバー好きで名前を知らない人はいない場所と言っても過言ではないです。30年近くこの道一筋で続けておられます。続けることの‬偉大さにはかないません。そんな師匠(尾崎正彦さん)がこの業界で名を馳せ‬て生きておられるからこそ、アルバイトから始めた私がこうしていられ‬る。全て師匠のお陰です。

ー自分がお客側からロックバーの店員になった時の印象はどうでしたか?

自分がカウンターの内側に入ってみると、全員張り倒したくなりました。何でこんなにお行儀が悪いんだ、酔っ払って来るな!とさえ思いました。バーなのに(笑)。 逆にそれまでの私のみっともない飲み方を許してくれていた師匠を益々尊敬しましたね。よくあんな飲み方をして出禁にしなかったなと(笑)。

ーリンエンドルフィンにはどのように繋がっていくのでしょうか?

エンドルフィン2は5年間勤めたんですが、建物の取り壊しや色々なことが重なり閉店になったんです。私ももういい歳だったので途方に暮れていたんですね。悩んでいたら沢山のお客様が「お前が自分で店やれよ」って言うんですよ。そんなこと全く頭になかった……今の物件もお客様に見つけて貰い内見したら、一人でもできる大きさで気に入ったのと、本当にありがたいことなんですが、機材やレコードもエンドルフィン2で使っていたものをそのまま引き継げることになって……でも当然お金がない。それで父に、国金(日本政策金融公庫)から借りるための相談をしに行きました。父はしばらく黙ってから、「国金に借りるくらいなら俺から借りろ!」って言ってくれて。自分の余生に使いたかったはずの貯金なのに…感謝しきれません。 でもよくわかんないままスタートしたのが正直なところですね。ミラクルが重なったんです。自分でも不思議です。師匠がくれたエンドルフィンの名と、自分の麟子を合わせ、占いもして貰い(笑)リンエンドルフィンにしました。

ーお店を始めた頃、つらかったことは何ですか?

帳簿をつけること。伝票整理、毎日の掃除、お役所に行かないと物事が進まない。全部初めての経験だったので何でも大変でした。でも人間関係のしがらみが一切ない開放感は嬉しかったですね。

ーお店をやって良かったと思う瞬間はどんなときですか?

やっぱりお店の音が良いねって言われると嬉しいです。うちの機材とアナログレコードの相性がバッチリ合う瞬間があるんです。ハイ、ミドル、ローの音域が全てマッチする。指先から全身までゾクッとくる。その感動は何ものにも代え難いです。
どんな偉そうな立場のお客様が来ても、カウンターの内側と外側の関係はフェアです。だから色んな職種の方々から、自分では経験できない話を直接聞くことができて楽しいです。

ーリンエンドルフィンの強みは何ですか?

60年代から現在まで、師匠から教えてもらったものや今までの経験があるので、どの年代の人が来てもどうにかするくらいは大丈夫です。何に強いとかがないのが強みですかね(笑)。

ーオーディオのこだわりを教えてください。

スピーカーがJBL4425、アンプがSANSUI AU-α907XRの組み合わせです。これは自由‬が丘のエンドルフィンと同じで、師匠のこだわりの組み合わせです。
どのロックバーもそうだと思うんですけど、うちが一番音良いでしょ?という‬気持ちでかけてます。同じ機材でもお店の造りで聴こえ方は全く違うので、こればっかりは偶然の産物なんです。そのお店だけの音になる。嫌いな音だったら続けてこなかったでしょうね。

ーどんなお客様が多いですか?

お客様は少ないながらも様々です。自分の好きな曲がかからないと​怒って​帰る人もいれば、新しい音を求めに来る人もいる。毎回、同じ3曲を聴いて帰る人もいる。わざと爆音にしてるんですよ、喋​らなくて済むから(笑)。それに、​師匠が雑誌のインタビューで答えていて同感した意見なんですが、​いい音に感じるために、ある程度の音量が必要というのもあって。家で聴く小さい音ではなく、デカイ音の空間で聴く意味が​お店には​ある​のではないかと​。 

ーお客様から勉強することも多いんですね。

自分が知っている音楽なんてほんの一部にも及んでない。私より知識が豊富なお客様なんてたくさんいますよ。その人たちから色々な情報を教えてもらえるから新譜も買い足しができる。懐古主義にならずに常に自分のアンテナに引っかかる新しい音楽は選んでいきたい。そこは大事にしています。

ーアナログレコードは?

デジタル処理の中での最高の音を、アナログに落とし込む。その方法で本来のアナログレコードのクオリティーを保ったものができているかは不明です。音のクオリティーはCDがいい場合もありますよ。でも今のレコードの音もいいと思えるものもあります。現状でできる限り頑張ってると思うので昔の音質と比較することはしたくない。 最近のアーティストがレコードを出す気持ちもわかりますし買います、私はレコードというものが好きだから買っています。レコードのサイズが好き。レコード盤の小宇宙に取り憑かれているだけです。

ーどういうお店でありたいですか?

今世の中が不安定で変わりやすいと思うんですが音楽をちゃんと聴かせるお店であり続けたいです。

ーどんな人に来てほしいですか?気軽に入っていいんですか?

泥酔してる人、お行儀が悪い人、トイレを汚く使う人はダメです。いくらお店がガラガラでも入れません。音楽やお酒を楽しみに来てくれるお客様を守るための最善策です。お客様だから、お金を払えば何をしてもいいとは思いません。私の中の判断基準でビシバシ注意します。このクソババア!とかよく言われますよ。

ーロックバーでの楽しみ方のコツ?などありますか?

こうすればいい、こうした方がいい、など何かこちらから言うことはありません。楽しみ方は自分で見つかるはずです。

Rock bar “Lin Endorphin”
1-5-11 Komaba, Meguro-ku, Tokyo 153-0041 Japan
Closed on Sunday
Instagram : @lin_endorphin
Twitter : @LiNENDORPHIN